家づくりの打合せで、
「収納をもっと増やしたい」
というご要望をいただくことは本当に多いです。
もちろん、収納は暮らしを快適にする大切な要素です。
ただ、判断基準がないまま収納を増やし続けてしまうと、家づくりの目的がすり替わってしまうことがあります。
本来、“暮らしを豊かにするための家づくり”が、
気づけば“収納を満たすための家づくり”に変わってしまう。
この記事では、その仕組みと防ぎ方をやさしく解説します。
収納を増やせば安心できる…という錯覚
収納がたくさんあると、
「とりあえず安心」
と思ってしまうのは自然なことです。
ただ、ここには一つ落とし穴があります。
- どれくらいの物を持つ生活をしたいのか？
- 自分の暮らしに必要な量はどれくらいか？
この“自分にとっての適量”が分からないまま収納を求めると、
収納づくりそのものが目的化してしまいます。
収納を増やしすぎた家に起きること
これまで数多くの住宅を見てきましたが、
「収納が多ければ多いほど良い」という考えは、実は多くのデメリットを生みます。
空間が狭く感じる
造作収納は壁面を占有するので、広さが圧迫されやすい。
レイアウト変更ができない
固定収納が多いと将来の暮らし方の変化に対応しにくい。
用途不明の収納が増える
「何を入れるんだっけ？」というスペースが家中に生まれる。
中古として売りにくくなる
次の住み手にとっては“不要な造作”に見えることも。
収納は家の資産価値にも影響します。
実例：収納だらけで魅力を失った家
売れ残っていた中古住宅を訪れたときのこと。
LDKの壁一面に造作収納がびっしり取り付けられていました。
一見「収納が多い家」ですが、
本棚なのか飾り棚なのか用途も不明で、
住んでいた人にしか価値が分からない造作の集合体になっていたのです。
このように、「収納が多い＝住みやすい」ではないという現実があります。
収納計画は「量」ではなく「哲学」
収納は“生活の結果として必要になるもの”であって、
最初に増やすべきものではありません。
大切なのは次の2つです。
- どんな暮らしをしたいか？
- どれくらいの物と暮らしたいか？
この軸があると、
自然と“必要な収納の量”が見えてきます。
もし、物の量が把握できない…と感じるなら、
近藤麻理恵さん（こんまり）の本など、
“持ち物と向き合う考え方”を知っておくと家づくりがスムーズになります。
【プロが提案】失敗しない収納計画の考え方
家づくりが収納のために暴走しないために、
以下のポイントを押さえてみてください。
① 「造作」より「置き家具」を基本にする
置き家具は移動でき、将来の使い方に柔軟。
② “入れる物が明確な時だけ”造作をつくる
「入れる物が決まっていない造作収納」は失敗のもと。
③ 家族ごとに“必要な物の量”は違う
平均値ではなく、あなたの生活を基準に考える。
④ 将来のレイアウト変更を妨げないかチェック
子どもの成長、働き方の変化、親の同居など…
「変わる未来に対応できるか」がポイント。
⑤ 収納率の“目安”に惑わされない
「床面積の◯％が収納率の目安」などの数字は、
実は生活スタイルを反映していません。
まとめ：収納は“多ければ良い”ではない
収納は家づくりに欠かせません。
しかし、増やすこと自体が目的になると本末転倒です。
- 収納は暮らしの結果
- 適量は人によって違う
- 造作は最小限、家具で柔軟に
この考え方を持てると、
「収納のための家」ではなく
「自分たちの暮らしを支える家」になります。
