AIで間取りやデザインが簡単に作れる時代になってきました。間取りも、外観も、条件を整理すれば瞬時に形になります。家族構成や広さ、予算や敷地条件を入力すれば、それらしい住宅プランがいくつも提示される。便利で、合理的で、しかも早い。技術の進化に驚かされる一方で、「もう人に相談しなくてもいいのでは」と感じる方もいるかもしれません。それでもなお、
人に相談する意味はあるのでしょうか?
家づくりは、単なる条件整理ではなく、これからの暮らし方や家族の関係性を考える時間でもあります。本当に大切にしたいことは、最初から言葉になっているとは限りません。この記事では、AIができることと、AIだけでは完結しないことを整理しながら、「設計とは何か」「人に相談するとはどういうことか」を、あらためて考えてみたいと思います。
AIで家は本当に作れるのか
AIで間取りをつくることは、すでに珍しいことではありません。たとえば、ChatGPTに「30坪、4人家族。南向きの敷地で、LDKは20畳以上。収納は多め」と入力すれば、数秒でそれらしい間取り案が提示されます。条件が整理されていればいるほど、出力の精度も上がります。

外観のイメージも同様です。Googleの画像生成AIなどを使えば、「シンプルモダン」「木の質感を活かした外観」といったキーワードから、**完成イメージを瞬時に可視化できます。**以前であれば何日もかかっていた検討や共有が、今では数分で行えるようになりました。

情報整理の面でも、AIは非常に優秀です。法規条件の整理やヒアリング内容の要約など、人が時間をかけて行っていた作業を効率化してくれます。スピードと合理性という点では、AIは強力な道具と言えるでしょう。
では、そのプランは本当に“あなたの家”と言えるのでしょうか。
人に相談する意味とは何か
AIで間取りや外観のイメージがすぐに作れるのであれば、「それで十分なのでは?」と感じる方がいても不思議ではありません。条件を入力すれば提案が出てくる。修正も瞬時に反映される。時間もかからず、費用も抑えられる。早くて、安くて、合理的。そうした魅力は確かにあります。
私自身も、AIを日常的に活用しています。初期のゾーニング検討や情報整理の段階では、とても頼りになる存在です。短時間で複数の選択肢を提示してくれる点は、人にはない強みだと思います。
それでもなお、人に相談する意味は残ると感じています。なぜなら、AIは「条件」を整理することは得意でも、その条件の背景にある「なぜ」を読み取ることまではできないからです。
家づくりは、広さや部屋数を決める作業であると同時に、これからどんな暮らしを送りたいのかを考える時間でもあります。その整理は、単なる合理性だけでは完結しません。
AIは「言葉」からしか設計できない
人に相談する意味が残ると感じる理由は、AIの仕組みにあります。AIは非常に優秀ですが、その出発点は常に「入力された言葉」です。どれだけ高度なモデルであっても、プロンプトとして与えられた条件からしか設計案を生成することはできません。
実際、生成AIは大まかな指示を与えると、当たり障りのない案を出してきます。「明るい家」「おしゃれな外観」「収納は多め」といった曖昧な表現では、どこかで見たことのある無難なプランに落ち着きやすい。より具体的で、優先順位が整理された指示を与えるほど、提案の精度は上がります。出力の質は、プロンプトの質に大きく依存しているのです。
裏を返せば、言葉にできていない想いは、設計に反映されないということでもあります。家族の距離感、気持ちの良い光の入り方、なぜか落ち着く空間の雰囲気。そうした感覚がプロンプトに含まれていなければ、AIはそれを汲み取ることができません。AIは条件を整理することが得意です。しかし、そもそも何を条件にするべきか、どこに優先順位を置くべきかを決める作業までは担えません。そこには、対話を通して少しずつ本音を引き出していくプロセスが必要になります。
本当に欲しいものは、まだ言葉になっていない
家づくりの打ち合わせをしていると、「なんとなく落ち着く家がいい」「明るいリビングがいい」といった言葉をよく耳にします。けれど、その「なんとなく」の中身を、最初からはっきり説明できる方は多くありません。
たとえば、家族の距離感。いつも同じ空間にいたいのか、それとも気配だけを感じられれば十分なのか。リビングに全員が集まる時間が好きなのか、それぞれが好きな場所で過ごしながら、ときどき視線が交わる関係が心地よいのか。その違いは、間取りの線一本で変わります。
光も同じです。ただ「明るい家」がほしいわけではなく、朝にやわらかく差し込む光が好きなのか、夕方に少し落ち着いた陰影がある空間が好きなのか。ダイニングテーブルに光が落ちる時間を大切にしたいのか。それは図面の数字だけでは現れません。
そして、「なんとなく好き」という感覚。木の床に素足で立ったときの感触かもしれませんし、天井の高さが少しだけ低い場所に安心するのかもしれません。そうした感覚は、本人もまだはっきりとは自覚していないことが多いのです。本当に欲しいものは、最初から言葉になっているとは限りません。むしろ、対話を重ねる中で少しずつ輪郭が見えてくるものなのだと思います。

設計とは、翻訳する仕事
ここまで見てきたように、AIは多くのことができるようになりました。間取りを提案し、外観を可視化し、情報を整理する。その力は、これからの家づくりにとって欠かせないものになるでしょう。
それでも、設計の役割がなくなるわけではありません。
これからの設計で大切なことは、
- まだ言葉になっていない想いを言語化すること
- 本当に大切にしたいことの優先順位を整理すること
- AIと人、それぞれの役割を見極めること
だと私は考えています。
AIは、与えられた条件から最適解を導き出すことは得意です。けれど、何を条件にするべきか、その人にとっての「本当の問い」は何かを決める作業までは、まだ十分とは言えません。
家づくりは、データの整理というよりも、これからの暮らしを描いていく時間です。だからこそ、対話の中で少しずつ輪郭を探っていくプロセスが、今も大切にされているのだと思います。
もし、まだ言葉にならない理想や違和感があるのなら、
その輪郭を一緒に探すところから家づくりを始めてもいいのではないでしょうか。

